「弥助」(2)羽後

takasare2005-07-10

 羽後町へは北側から入った。周りの田圃に押し込められるように、集落は軒を並べ道は狭く入り組んでいる。方向感覚がなくなり、目印の役場を探すことにした。比較的賑やかな道を突き当たったところで首を巡らすと「弥助蕎麦店」は在った。駐車スペースは見当たらないので先ほど見たスーパーに戻り車を停めた。
 どこの町にでも在るような、古い食堂のような蕎麦屋だ。予備知識なしに蕎麦屋を選んでいたら、選ばずにもっと良い所を探して通り過ぎる気がする。
 入ってびっくりする。狭いことも在るがほぼ満席なのだ。表の人通りや店先の感じからは想像できなかった。店の人が書き物にでも使いそうなテーブルを見つけて座った。壁や手すり、たな板が黒光りしている。窓が少なく暗いけれど清潔さを感じる。声高に仕事の話をしているサラリーマン風の客…。彼等の頭にちょんまげでも載せたらそのまま江戸時代にタイムスリップできそうな雰囲気を感じた。良い店だ。
 もり蕎麦を頼んだ。私の直前に入ったらしい客が「冷やがけ2つ」と店の奥に叫んだ。壁を見るとあちこちに「弥助名物、冷やがけ」というはり紙が貼られている。直後、出た客と入れ代わるように入って来た客が、「ひやがけ」と叫びながら席を探している。「はーい」と言いながら、店の人が先客に「冷やがけです。おまちどうさま」と配膳している。(早まったか。これは、冷やがけを食わずばなるまい。)とあわてて店の人に「さっきのもり蕎麦、冷やがけに変えてもらえますか」と頼んだ。奥に聞くと「良いよ」という返事が返ってきた。ベストのポケットからデジカメを出して待ち構えた。