とうじ蕎麦-2

 

 蕎麦が来た。ぼっち盛りという蕎麦が馬蹄形に一回分ずつ小分けされて九ぼっちである。とうじ籠に一ぼっち入れ、それを油揚げの浮いた鍋に入れて湯煎するように温める。温まったらお椀に入れ、しゃもじで汁を掛けて食べる。蕎麦は田舎蕎麦にしては軽めに打たれている。昔は熱い汁をかけてしまうかけそば風にするとのびて溶けたような蕎麦になってしまうからの食べ方なのだろうか。ハレの日のごちそうだったこのあたりの蕎麦を大事に食べる食べ方だったのだろうと思う。そんなことも勝手に思いながら、酒も入って仲間とわいわい騒ぎながらのとうじ蕎麦が「やっと食べられ」実感できた
 食材が豊富な今、鶏肉など入れて美味しくしようと思えばいくらでもできるだろうに油揚げと山菜でのかけ汁もすてきだった。仲間も喜んでくれて、私の蕎麦好きが役に立ち面目を施した。

 帰りしな「とうじ籠どこか手に入るところありませんか?」と訊くと、「ここで売っていますよ」という。床がきしむ狭い廊下の一角にテーブルが置かれ、とうじ蕎麦にまつわるお土産が慎ましやかに並べられていた。その中央の花瓶に埋けられるように数本のとうじ籠が挿されていた。私たちが今使わせてもらったものと同じ、しっかりとした作りのとうじ籠だった。以前松本の蕎麦屋では全部竹製で軽いものだったが、ここにあったものは、柄から籠の縁は一本の木を撓めて曲げてありそこに竹の籠の端が一本一本差し込まれ頑丈な作りになっている。熟練した年寄りの手仕事が想像できた。家族分4本買った。
 次女が帰省するまで一ヶ月待って先日我が家でとうじ蕎麦をした。土産に買ってきた木曽の十割田舎蕎麦と六四位の乾麺蕎麦を二種類茹でた。もちろん汁には油揚げをふんだんに入れたが、やはり鶏肉も入れてしまった。私は田舎蕎麦のもそもそ感は好まないが、なぜかとうじ籠で食べるとこの田舎蕎麦の方が美味しかった。またとうじ蕎麦がわかった気がした。

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