山の昼飯(2)

     何を
近くの日帰り登山の時は、基本的に自分が握った握り飯二個のことが多い。これが一番美味しい。他の人の昼飯を覗いても握り飯の人が多い。冷たくならない、手袋でも食べられる等の利点からパンの人もいる。また、ガス、コッフェル持参の簡単調理で山の雰囲気満点の昼飯など様々だが私はやはり握り飯が好きだ。コンビニおにぎりでもいいが時間があるときは自分で握る。何より義母が漁家から買ってくれる「浜の母さんの手摘み手作り海苔」が美味しいからである。妻が勤務先に持っていって朝食にしたいというので二個よけいに作る。このおにぎりを山頂で食べられる楽しみも私を山頂へ誘う一つである。
 最も贅沢な昼食はなんといってもネパールのトレッキングでの昼食であろう。アンナプルナ・ダウラギリパノラマトレッキングの時のある日の昼食が写真に残っていたので書き出してみると、もりうどん(お椀につけ汁・傍らに刻み葱)、太巻きの海苔巻き二切れ、果物入りヨーグルト、ベーコンというメニューである。そのどれもがお代わりできたしインスタントではあったが温かいコーヒーか紅茶も用意されている。温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、できたての食事を敷物や椅子テーブルで、食器で食べられるのである。自分たちは全く食べるだけでいいのである。
 ネパールの山の中に来てうどんや海苔巻きが食べられる贅沢さだけではない。地元の人たちの食事と比べても、食事を用意してくれるシェルパの人たちの食事に比べても贅沢だし、何より、朝食後の食器を洗い、私たちより遅く出発しながらも重い荷物を額に掛けて私たちを追い越し、温かい食事をセッティングして待っていてくれる…山歩きをしていてこんな贅沢は無い。「こんな偉ぶった贅沢を私如きがするべきではない」等という偽善はシェルパの人たちの屈託のない笑顔でたちまち打ち砕かれてしまう。そして偽善が感謝に変わったときヒマラヤの自然とそこに住む彼らの逞しさにかなわないことを思い知らされ、彼らの素朴さを食事していたことに気が付くのである。あらためて思う「こんな贅沢は無い」