山の昼飯(3)

  ニュージーランドのトレッキングの時は朝食後の出発前にガイドが用意してくれた数種類のハム、チーズ、野菜の中から好きなものを自分でパンに挟み、ラップで包んだお好みサンドイッチである。最後に山盛りの中から林檎やオレンジを好きなだけ取って袋に詰めて昼食が出来上がる。美味しさよりも、作ることが一寸楽しい昼食だった。昼食の場所はトレッキングコースに決まっていて、そこにはガスコンロや調味料、お茶等が用意された小さな小屋があり、ガイドが暖かい飲み物を用意してくれた。ニュージーランドはトレッキングのメッカだが山の昼飯にまで味気ないほど合理的に考えを巡らせる。
 カナダに行ったときは二回ほど出発前にスーパーで昼食用にサンドイッチを買ったことがある。ケースの中には様々なサンドイッチがならんでいたが迷う必要はなかった。内容よりも大きさで選ぶしかなく、最小のものを買えば良かった。それでもボリュームは十分だった。同行の女性グループは買い物はしなかった。前にも経験があるらしくどう工夫したのかご飯を炊いておにぎりを作ったと言うことだ。いろいろな事情もあるのだろうが私はカナダの山にトレッキングに来てまでおにぎりは食べなくてもいい。食事こそ郷に入っては郷に従えだと思う。
 中国四川省のトレッキングでは歩くと言うよりバスでの移動が長く、ロッジや食堂のような所での食事が多かった。それはそれでいいのだが、具材に多少の変化があるだけで調理や味付けに変化が無く、その上ホテルの朝食、夕食も同様なので日程途中で飽きてしまった。いわゆる「肉入り野菜炒め片栗粉あん」ばかりが何皿も出てくるのである。食べることには節操のない私でさえ弱音を吐いてしまったほどである。
 四姑娘が見える花の丘(4000M))にのぼったときは、ガイドの女性が早起きしてホテルの調理場を借りて手作りしたサンドイッチを持たせてくれた。廻り一面クリーム色のサクラソウの頂上だったし酸素が薄い中あえぎあえぎ登ってきた後だったためもあろうが、何よりいつもの田舎中国料理でなかったことが美味しかった。
 中国の人たちの携帯食とはどんなものだろうと思ったりもした。