温し

       エヴェレスト街道

   マニ車だけくるくると老い温し   未曉

 

 帰りは往路を一泊少ない日程でルクラという飛行場のある所まで降りた。集落の中を通る。老人が着ぶくれて一人、陽を浴びて入り口に凭れている。動かない。手も動いていないようなのに小さなマニ車だけが胸前で廻っている。男は出稼ぎにでも行ってるのだろうか。見るのは女ばかりである。そんな集落を繋いで降りてきた。

 このツアー道中肌感覚から勝手に「春」と思って過ごしていたが、帰り着いたルクラの夜は暦では大晦日だった。シェルパのコックが年越し蕎麦を作ってくれた。ツアー仲間、シェルパの人たち、キッチンボーイみんなで打ち上げの宴をした。強い酒に喉を焼き、一緒に踊った。報酬を手にした者はそのお金で賭け事をするという。好きな音楽のカセットテープを買うという若者もいた。それぞれヒマラヤの山の中に山道を帰って行く。

 ヒマラヤトレッキングはその後二回も行くことになった。

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