アンナプルナ・ダウラギリ展望トレッキング(5)

takasare2007-04-05

  4/3 ガンドルン〜タダパニへ
 モーニングティーは6時に外で、いつもならその後すぐの洗面器のお湯は6時半からにセットされた。朝焼けのアンナプルナ鑑賞のためのツァーリーダーの計らいである。にもかかわらずみんな5時半には起きだして撮影に走り回っている。ホテルの庭から各階のベランダから屋上からシャッターを切る。刻々と明けてゆく山稜は飽きない。黒味を帯びた青灰色の空の稜線近くから明るくなり、やがてアンナプルナの東稜が一筋、白く輝く。ヒマラヤでも西寄りになるここら辺りの峰に日が当たる頃太陽はすでに朱色を失っている。YaさんKoさんはスケッチを始めた。九州のMiyaさんはスケッチに見入り、Kobさんは山に、Tuさんはガンドルンの村のたたずまいも含めてカメラを向けている。光の変化は続いて欲しいけれど、時間は経って欲しくない…ゆっくり眺めていたいけれど、もっといいアングルが無いかと動き回ってしまう…。そんな朝だった。今日はタダパニまで。時間的な余裕も在るのだろう、結局朝食は15分くらい遅れた。
 おかゆに昆布の佃煮を入れて2杯、パンケーキと卵焼きの朝食を完食した。便は少し柔らかかったけれど、腹は復調した。起きてドア一枚で簡易にしろ水洗トイレというのは腹具合まで良くしてくれる。
 昨日、登りの終盤Koさんが筋肉疲労を起こしたこともあり、ホテルの庭でツァーリーダーを先頭にストレッチをした。後ろに体をひねってもアンナプルナは少し見えただけの硬い体だが、人生の中で最もすがすがしい朝の体操になった。
 8時、ホテルの庭から路地を抜けてタダパニへの道を歩き出した。陽射しはもう暑い。背中に白く眩しいほどに輝いているアンナプルナがある。時々振り返り名残を惜しむ。昼近くになれば、また霞がかかって見えなくなるだろう。尾根をかわすと日陰も多くなり歩きやすくなった。徐々に石楠花が多くなってくる。そしてその見事さも増してくる。急登もあったが、石段が姿を消し土の道が多くなってきたので歩きやすい。雨でも降っていたら石段が無いことに文句を言ったかもしれないが…。快調なペースで、10時50分昼食を摂るバイシーカルカロッジに着いた。赤い石楠花と、白い辛夷に飾られて斜面に建っていた。
 笊うどんが出され、九州のTuさんから食べてくださいといわれた分まで食べてしまった。果物と野菜のサラダ。なんと海苔巻きがついた。みかんは、果汁が少なく食べようがない。歯を立てて汁だけ啜った。完食。念のために水を一本買った。80RP。昨日より300M上がって10RPの値上がり。
 タダパニへの道は石楠花の道だった。遠くに近くにピンクや真紅の石楠花が木全体に咲き誇っている。葉も緑が濃く茂っているので桜の満開とは風情が違うが付いている花が全部咲いているという意味では満開である。我が家の庭の低木石楠花に見慣れているせいか抱えられないほどの幹で10mはある大木の石楠花は別の植物の感じがある。かと思えば、直径30cmくらいの石楠花の林が谷を埋めていた。「Kuさんが石楠花の純林と言える」と言っていた。林の中は下草が少なく、薄黄緑の綺麗な苔が木の根、腐木、岩に張り付き木洩れ日に美しい。去年の石楠花の枯れ葉と落ちた石楠花の赤い花で敷き詰められた道は幻想的ですらある。緊張を解き気持ちよく歩いた。タダパニが近づき益々石楠花が目を奪う。香りに花を奪われ気がつくと沈丁花が咲いている。谷底の水辺には白蝶が舞っている。リーダーが「猿」と言い。みんなが目で追いかける。「いるいる」「しろい」「大きい」と言う声が続く。私には見えなかった。「ラグーンと言う白くて顔が黒い猿です」とリーダーがつけたして説明してくれた。悲しいことに百科事典か何かで見たそれらしき猿を思い浮かべるしかなかった。五感を遊ばせながらの楽しく豊かなトレッキングになった。
 急いだわけでもないが、13時にはタダパニに着いてしまった。パノラマポイントロッジはほとんどがロッジのタダパニの高みにあった。中心部の開けた所ではトレッカー相手の土産物屋が数軒露店を出していた。一休み後今回の旅で唯一買おうと思っている鈴を探したが見つからなかった。Koさんはアンモナイト、熊本のToさんはマニ車を買っていた。
日本人と見ると「みるだけねー」と声をかけてくる。きっと日本人は「みるだけ」と言いながらも買っていくのだろう。時間があったのでまた着なければならないTシャツは汗を拭いた洗面器のお湯でざっと洗ってベランダの針金に干した。スケッチ、地形図、付近の散歩など思い思いに過ごしていた。ゴンパでも立てるのだろうか集落の最も高いところに工事現場があり、眺めがよさそうなので函館組みで登ってみた。我々のロッジが見え、女性陣が土産物屋を冷やかしている。数件のロッジが石楠花の森に取り囲まれるように建っている。工事現場と言っても当然機械はない。木の車輪が付いた石か何かを運ぶものがあるだけで、二人の人が手で石や土を動かしていた。
 豆ご飯、おでんスープなどの夕食後しばらくおしゃべりをした。相変わらず夕方は山は姿を隠す。明日の朝はまた見られるだろう。早めにベッドに入った。
タダパニへ石楠花色の足となる  未曉