秋麗

 幼いときの記憶だが、母はいつも鼻歌を歌っていたような気がする。鼻歌を歌っているときの母が好きだった。鼻歌を歌うという心の状態が好きだったのだろう。母は穏やかな人で感情の起伏を表情にあらわすようなことはほとんどなかった。一度母の財布から10円をくすねたときも、しっかり叱られたが表情や言葉を怖いとは思わなかったくらいだ。鼻歌を歌う時に感じる母の機嫌の良さは末っ子の私には本能的に感じる安定感だったのかもしれない。

 亡き母に鼻歌の時秋うらら  未曉