兼題「熱燗」習作。
 親父は火を守るが如くストーブの前を父の座としていた。ストーブの上の薬缶に入れた徳利で燗をしていた。熱いのが苦手で徳利をつまみ出すのはもっぱら母がやっていた。たまに父が上げる時は薬缶からあわててテーブルの上に置き、その後耳たぶにをつまんでいた。その一瞬の手踊りが我が家の昭和の夕餉の景だった。
 今私の燗酒は電子レンジがしてくれる。広口の酒器に入れ、1分40秒に合わせ調理スタートのボタンを押す。「お燗は調理か」などと思いながらそこで待っている。平成の少し興醒めの夕餉の景である。
  チンという音で熱燗少し冷め   未曉
 「熱燗」の句がなかなか出来ない。そんなときは体験するに限ると思って燗酒を飲むことにしたがそれでも出来ない。酒を飲むという実際は言葉に結びつく前に味わったりその雰囲気に酔ってしまうからのようだ。結局苦し紛れになる。
  熱燗や中七出来ぬまま胃の腑   未曉