伊藤郁子遺作展-2

 ある日の編集作業の長机に、岩佐が「伊藤郁子さんの表紙できたぞ」と数枚のスケッチを並べた。一枚の絵が目にとまり、あまり時間がかからずに決まったのを覚えている。冬の函館東高校だが青雲台という学び舎の雰囲気と広がりが十分感じられる繪だった。岩佐の聞いてきたエピソードを元に編集後記には「表紙は伊藤郁子先輩に依頼した。不自由なおからだを押して、雪の降りしきるなかを母校までスケッチに行かれたという。全身に雪を積もらせてまで描いていただいたこの作品は青雲台のたたずまいをほうふつとさせる。」と書かせていただいた。この表紙を見るたびにこの絵のこちら側でスケッチする雪を被った伊藤郁子さんのお姿を思いうかべてしまう。もっと簡単に考えていた表紙だったが、印刷所の協力もあり伊藤郁子さんの絵を生かすべく三色刷りの立派な表紙にすることができた。
 2007年3月で函館東高校は函館北高校とともに市立函館高校として統合され、函館東高校は閉校、ともなって「青雲時報」も終刊となっていた。2008年春、そこそこ元気でそれぞれの退職を迎えていた百号記念の縮刷版を刊行したメンバーとしては放ってはおけず、青雲時報終刊記念・続青雲時報縮刷版を刊行することになり、再度伊藤郁子先輩に表紙をお願いした。新校舎には変わっていたが、函館東校時代のまま残っていた校舎を描いていただいた。二冊並べるといっそう輝きを見せる表紙になっている。
 遺作展。伊藤郁子先輩のアトリエの壁を天井まで埋め尽くして展示された郁子ワールドの中で、我々の厚かましくも無理な願いに母校愛あふれる作品で応えてくださった伊藤郁子先輩に感謝していた。

 

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