春の海

6度の冬を日本海に突きだしているかのような島牧で経験した。冬の日本海はただただ荒れ狂っているという印象しかない。波は壁となって繰り返し繰り返し打ち付ける。夏あれほど大きかった巌が小さく頼りなげに白濁の大波を堪える。浜では累々たる漂流物に風が吠え拳大の石が鳴り止まない。出稼ぎで男がいない集落は雪囲いの中に籠もっている。そんな日も子どもたちは登校した。あるときオーバーの尻をつかんで歩いていたはずの一年生の女の子の気配がなくなった。崖で跳ね返った返しの風で道路下に飛ばされていた。

 子どもたちとたわいのない話をしながら学校裏の堤防に座って沖を眺めているとふと海が凪いでいることに気づく。島牧の春に気づく。

  何事も無かったように日本海(うみ)の春   未曉