大森浜には鰈釣りが竿を出していた。三人で7本、この時期多いのか少ないのかわからないがみんな働いている時間からかもしれない。一人は動き回って散歩の人やゴミ拾いをしている人と話している。自分の竿は離れたところに3本立ててある。一人は竿を持って波打ち際で身体を動かしている。針が引っかかりでもしたのだろうか。もう一人は3本の竿の根方に椅子を置きそこでじっと動かない。春のような日差しを全身に浴びて気持ちよさそうである。
 私は16年間道内でも釣り場として知られる浜で過ごしたが釣り糸を垂れたのは一回しかない。その一回も赴任した島牧の一週間目にK君の漕ぐ磯舟で鰈釣りを3時間やっただけである。釣り好きの人に言わせれば「もったいない」のだろうが私に向いていないものの一つだ。
 眠っているようだった釣り人が突然立ち上げりリールを巻き上げ始めた。春の海がゆっくり折りたたまれるように寄せるその平行な細い波頭の間から鰈が引き出されるように釣られてきた。針をはずそうとして取れなかったのか釣り人が道具を取ろうとその場を離れた。鰈を竿にぶら下げたままである。ぶら下げられた鰈は身を丸めたり伸ばしたり針をのみ込んだつらさから逃れようとしていたがすぐ力尽きてあきらめた。春の海のように静かで平たくなった。私は「写真に撮ってやる」という思いでシャッターを押し、釣った人に「写真取らせて貰いました」と断った。いちいち釣った魚にこんな思いを持っていたら釣りなど出来るはずもない。

春の海鰈ひらたく釣られけり   未曉