車で奥のほそ道・黒羽 雲厳寺

 日光の後、芭蕉は栃木県を東北高速道をはさむようにジグザグに歩く。日光、黒羽、那須湯本、芦野から白河の関である。
 黒羽の雲厳寺の奥には江戸で参禅の師として親交ののあった仏頂和尚の山居の跡があり訪ねている。《山は奥あるけしきにて、谷道遙かに松杉黒く苔しだたりて、卯月の天なほ寒し。十景尽くる所、橋を渡って山門に入る。》

 番号が付いている道路もだんだん細く一車線になり、人家も農地も無い狭い谷が尽きるあたりに雲雁寺はあった。雨が降ったり止んだり。降っているときも風が無いので、煙るような山肌をバックに真っ直ぐな雨筋が見えるような降り方である。私一人しかいない。道路から門を一つくぐり谷川にかかる朱塗りの橋を渡れば鼻先にすぐ石段が立つ。終わりかけの椿が石段を守るように赤い残花を見せている。木々に境内の細かな砂利に吸い込まれるような雨の音が逆に静けさを感じさせる。登り切ると山門。山門のフレームの中に雨の糸越しに狭い境内と本堂が見える。斜面を利用して建てられているので狭い平地を石段が繋いでいる。そこを上り下りしている内に雨が止んできた。山霧がゆっくり動いている。そこから紅梅、白梅が明るさの源のように浮かび上がってくる。芭蕉の句碑の前に来た。
  啄木鳥も庵はやぶらず夏木立    芭蕉
 仏頂和尚が雲雁寺の奥に庵に  竪横の五尺にたらぬ草の庵結ぶもくやし雨なかりせば と書き付けてきたと言っていた庵が残っていたのだろう。
  梅の香の煙雨迎へし雲雁寺     未曉