私的蕎麦の道(3)・中禅寺湖「新月」

 第二イロハ坂を登って中禅寺湖湖畔に着いた。シーズン外れかほとんど観光客は居ない。何処でも車は停められそうだったが、公営の駐車場があったのでそこに入れた。その駐車場はそのまま展望台になっていて景色を楽しんだ後、旅情報誌で見つけておいた手打ちそば「新月」を探した。
 湖畔に面したいわゆるメインストリートにあった。7,8メートルはある大きな間口の左側3メートルほどに暖簾が下がっている。11時40分、入ると薄暗く広い店内に誰もいない。二、三度声をかけるとカーディガン姿のおじさんが出てきた。いわゆる安食堂にあるような食卓に座ると初めて食べる客だと気が付いたように、奥に向かって「お客さん来たけど、もういいの?」と声をあげた。奥から女の人の声で「いいよ」と声が返ってきた。食欲が無くなるやりとりだ。よく見ると広い間口の向こう側は土産物売り場が広がっていた。つまりおみやげ屋さんの半分が食堂になっている。とくに内装に変化があるわけでなく土間には簡単な六人掛けのテーブルの椅子席が7〜8卓、小上がりにも座卓が8卓もある。メニューの品数もたくさんある。昔ながらの観光客目当ての食堂に手打ちの蕎麦を付け加えたメニュー構成のようだ。そういえば、蕎麦を出してくれたさっきのおじさんもおみやげ屋さんのオヤジという方がぴったり来る。きっとシーズンには賑わうのだろう。これだけのメニュー。テーブル数。忙しいときの手打ち蕎麦はどうなるのだろうと思輪ずにいられない。
 蕎麦はたしかに手打ちだったし麺はそれなりのそばだったが、水切りが悪く、辛汁に力がない。「されど蕎麦」への意気込みが感じられない蕎麦だった。
 帰りしなレジそばにあったパンフレットを手にした。驚いた。日光市観光振興課で出している「日光市手打ちそば店」マップにはなんと日光市内だけで132店の手打ち蕎麦屋さんがあるのだ。
 少なくても情報誌に紹介された店の手打ちそばへの取り組み方、そしてこの店の多さ。きっと一生懸命美味しいそばを追求している蕎麦屋さんが有るに違いない。でもどうやって探せばいいのだ。私のそば食いのテンションが一気に下がってしまった。「手打ち」というのが「されど蕎麦」を意味するものではなく単なる客寄せのフレーズになってしまった例は、この旅でこの後も体験することになる。