久蔵(二)

 白い皿に簀の子が敷かれその真ん中に山に盛られている。2,3本すする。歯応えがいい。新そばの香りは薄いが蕎麦の味がきちんと伝わってくる。つゆを付ける。甘めのつゆだがそば祭りなどで出されるほどではない。案の定山に盛られたそばはからまって自分の好みの一箸にならない。ついつい一箸が多くなってしまう。いつものようにつゆをつけずに、つゆをつけて、わさびをつけて久蔵の新そばを楽しんだ。楽しめる蕎麦だった。そば湯そば湯として作られたそば湯で濃く、ネギと残ったわさびでしっかり味わえた。
 夫婦らしき二組が入ってきて顔を出した店の人に追加で温かいたぬき蕎麦を頼んだ。食べるよりもおしゃべりがさかんな先客はまだごちそうさまではない。部屋に置かれたものや欄間の凝った作りを見ているとそう長くは感じない。新しい客の天ざるやもり蕎麦の後にわたしのたぬき蕎麦が運ばれてきた。熱いかけ汁の湯気の中に期待したがやはり蕎麦の香りはうすかった。しかし温かい蕎麦でも失わない歯応えで美味しく食べられたし、蕎麦猪口に分けたかけ汁にそば湯を入れて一味をふると立派な一椀の料理を味わった気になった。そういえば白口浜昆布の地元。その昆布で出汁を取っていると玄関先の張り紙に書いてあった。
 久しぶりに「たかされ探し」を書こうという気にさせてくれた蕎麦だった。