青葉

 旅二日目。鳴子の宿を出る。
   浴衣着ればこけしとなりぬ鳴子宿   未曉
 尿前の関に芭蕉の足跡を訪ねた。関跡も良かったが斜面に口を開けた踏み分け路のような旧道に芭蕉の姿が重なった。雨に降り込められ、案内の人を頼んで雨に荒れた山刀伐峠の難所を出羽へ越えようとする芭蕉に覚悟のようなものは必要だったに違いない。
 古口から最上川の舟下りをした。船頭さんの竿さばきの妙で急流を乗り切る舟下りをよそうしたが、実際は最上川とその流域の豊かさを最上川の流れと化して味わう舟下りだった。(句材を見つけ、句帳に書き、口に転がすにはこの舟下りは非常に適していた)最上川は豊かだ。万緑の山を溶かした水の色に映るまた万緑の山…
   青葉より出て青葉へ最上川    未曉
   一条の瀧たちまちに最上川    未曉
 酒田。インターネットで見つけた「田毎」の蕎麦が旨かった。私好みの固さで歯触りがよく、辛つゆは甘めだったが途中で何も付けない蕎麦で何度か口直をしておいしくいただいた。量も良く800円は高くなかった。かけ蕎麦は夏場はやっていないそうで食べられなかったがかけ汁はきっと関西風だろうから醤油好きの私としてはそう残念でもなかった。今回の旅の収穫の一つになった。
 十年前は内部に北前船で賑わった頃の様子が展示されていた山居倉庫は外から眺めるだけだった。
 この旅での個人的には最大の眼目、羽黒山五重塔中尊寺金色堂と対照をなす意味での素晴らしさがあった。五重を支える巧みで複雑な木組みで建っていた。昔は朱に塗られ麓から見えたかもしれないが、いつからかは杉木立に埋もれてしまったに違いない。国宝などになり観光客が来るようになる前はきっと人知れず建っていたに時期もあっただろう。これみよがしな京都や奈良、古刹と言われる寺の五重塔とは違い時の流れを思わずにはいられない佇まいだった。
    羽黒山 
   汗おさめ五重の塔の御ン前に    未曉
   五重塔失くした色で若楓      未曉