白内障日帰り手術(2)

 円い穴の空いたシートが顔に被せられた。私は手術台と化した椅子に左目だけになった。挨拶が交わされて医師が入ってきたようだ。そして「それでは??(専門用語らしき言葉)を始めましょう」と儀式のような口調とともに私の頭上に座ったようだ。「20分くらいで終わりますから身体を楽にして下さい」と語りかけられる。「?????」(いよいよだな)「?????」左目が見ていた天井がばっと明るくなり眩しさが溢れた。「??????を始めます。少し上を見るようにして下さい。」(もう手術は始まっているのか?)
幸いなことに明るすぎて何も見えない。医師の指も見えないしましてやメスなども見えない。(恐怖の余り醜態をさらすのではないかとさえ考えていたことが杞憂におわりほっとした。)「??????」私に言っているのか、周りの看護師に言っているのか、自分で確認しているのか喋ってくれる。言葉は聞き取れないものの音やパンフレットで見た手術の方法などと考え合わせて勝手に手術の進行を想像できる。(余裕が生まれた)
 眼球は常に何かの液で浸されている。小学生の頃蹴伸びしかできないときに泳ぎに行き、着いたブイに捕まることが出来ず溺れ、沈みながら海水越しに見ていた青空を思い出した。液体越しに光源となっている3本の光の筋を見ていた。左目の奥にずーんと言う鈍痛が積み重なっていく。そろそろ終わって欲しいなと思い始めた頃「???を磨きます}と聞こえた。次に「レンズ入れます」という声がした。工事用語として聞けば聞き取れることに気が付いた。「無事終わりました」「目薬をさします」「軟膏を塗ります」「眼帯をつけます」医師の声から看護士の声に変わり、機械に繋がっていた様々なものを取り外して手術は終わった。途中からは緊張していないつもりだったが肩から抜ける力があった。
 予定どおりほぼ20分だった。待ち時間もいれればいつもより短いくらいだ。10時過ぎには秋晴れの中、病院を出た。最低明日まで眼帯は外せない。右目の四分の一が見えないので右目だけの生活が始まった。車に気をつけながら歩いて帰り、昼はお湯を若洲だけのインスタント焼きそば。テレビもあずましくない。読む書くも出来ないことはないが集中できない。左目の奥の方に鈍痛もあり、寝てしまった。覚めたら痛みはなくなっていた。今晩は妻が帰ってきたら外食することにしている。あしたまで何もすることがない。コンピュータもあきらめる。俳句でも…とおもったが、「でも」と思ったのが禍して何も思い浮かばない。入院したときとあまりかわりなかった。