川汲・台場山(1)

 道道83号線。矢別ダムを左に車を走らせる。矢別トンネルに入る前は雪を駆逐した浅春だったが、こちらはまだ雪が多い。左に林道の入り口が見え「熊出没、入山禁止」の看板がある。
 スノーシューを背負いつぼ足で簡易舗装の路を歩き出す。川に沿って一曲がりするとすぐ雪が道路を覆っている。雪も薄く、朝の冷気で締まっているため靴が沈まず歩きやすい。道幅が広く4人が横になったり斜めになったり、先頭もしんがりもなく歩く。日当たりが良いところでは雪が消え、アスファルト路面になる。ガードレールもある。立派な林道だなと思っていたら、この道路は昔函館と南茅部を結ぶバス道路だったということだ。一転、バスが通っていた往時を想像するとこの路があまりに険しく細い悪路に思えた。
 福寿草の金色と蕗の薹の浅緑、白い雪、青空…。彩りと言えばそれだけだが日の光さえあればいっせいに輝き出す。春は日の光に因る。
 分厚い靴底に様々な感触を楽しみながら歩いた。堅雪、腐れ雪、乾いたアスファルト、雪解けの水たまり、踝まで埋まる落ち葉。こんな他愛もない多様さも春だからだろうか。
    春日向去年の落ち葉の寄り来る  未曉
 4Km近い旧バス道路の歩きは「旧山道古峠」の標で終え、隣に左へ回り込めば台場山砲台跡への登山口を教える標識があった。
    うしろ手に春日を負ふて古峠   未曉