戸切地陣屋跡を訪ねた。駐車場から表門までは雪が深そうだったので車を停める気にならず、そのまま走らせたら裏門に来てしまった。堅雪になっていて乗ってみても沈まない。二日前くらいの人の足跡と犬の足跡に誘われるように裏門をくぐった。誰もいない。
 1968年函館戦争の時、松前藩が政府軍に利用されるよりはと建物に火を放ち炎上させてしまった。わずか13年の陣屋の歴史だそうだ。濠、土塁を四稜に巡らした址が残っている。
 建物が建っていた広場の中心の松が樹心とも言うべき辺りで折れていた。今冬の雪のせいだと思われる。その時は慟哭のような悲鳴を上げたのだろうか。120人余りがいたと言われる建物群が炎上したときの熱さや赤く染まった興奮の時を思い出したのだろうか。美しく雪に佇む他の木々は黙してなにも語らない。

      陣屋跡松雪折れの史の声  未曉