蕪村の句以上の句は思い浮かばないような大森浜である。一枚一枚の波が春を届け続ける。大方は砂に染み入るが少しは弾け大気の春を進めていく。そのたびに眠くなる。横のスペースに車が止まり、若い女性の歓声で目を覚ます。観光らしい。浜辺ではおばあちゃんと孫が波に遊んでいる。孫が貝殻に目を奪われた頃、歓声の主の二人が浜辺に立つ。若々しいポーズをとって写真を撮る。立待岬あたりをバックにしているのだろうが逆光だ。細波がきらきら光っている春の海が背景なので私からもシルエットでしか見えないがそれだけにそこに立つ人すべてが似合う。今日は下北も霞の白濁の向こうである。散歩の人。釣り人。ゴミを拾っている人。若い女性。おばあちゃん。幼児。三脚を構えて撮影に余念のない人。啄木座像まで…。春の海はみんな春の人にしてしまう。
     光る海汀訪ふ皆春の人   未曉