車で奥のほそ道・芦野 遊行柳

 那須湯本から再び東北道をくぐって芦野へ。ここも歌枕の地である。西行が「道のべに清水流るる柳陰しばしとてこそ立ちどまりけれ」と詠んだ「遊行柳」がある。俳人だったこの地の領主が「この柳みせばやな」と芭蕉に言っていたので訪れている。
 のどかな春耕まえの田園風景に気を取られていた。案内板、表示板を見逃したかなとあわてていると蕎麦屋の幟があった。手打ちとある。ドライブインのような広い駐車場に車を入れ、地図を見直した。まず現在地確認と思ってその蕎麦屋の周辺に目を巡らすと、その片隅に柳が一本生け垣に囲まれて立っている。「えっ」と思ってさらによく見ると、この蕎麦屋は、「遊行柳」を訪れる観光客のための芦野市営の産直販売も兼ねた施設らしい。われながら「すごい」と何がすごいのか変なことで自分を褒めて車を降りた。那須湯本を下るころからの雨だったが、ここでは空が明るくなり小雨が降ったり止んだりしている。情報収集、店の中へ入った。
 パンフレットを見ると、遊行柳は歩いて五分ほどの所のようだ。小降りになった雨に傘をさして靴をスニーカーに換え、案内板のままに店の裏へ行った。裏と行っても田圃の真ん中の畦道のような所である。傘を上げてよく見ると平地に農家を点在させ、道路、農地を描き込んだような農村風景である。その中の一つに柳の大木があり、鳥居がある。さっき車を停めたとき遠くまで見回せばあんな小さな柳に驚かなくても良かったのだ。

 大木の持つ力か、すぐ傍に田圃を見せながら、歴史を感じさせる。西行の時の清水は芭蕉の時にはもう田水を流す堰だったかもしれない。
    田一枚植ゑて立ち去る柳かな   芭蕉
 「立ちどまった西行、立ち去る芭蕉」と、読みとるのだそうである。歌枕を訪ね、彼の歌に自分の句を重ねる詩心と言葉の巧みさに感服する。