私的蕎麦の道(3)・東京の蕎麦屋

  目黒「いしおか」
 下の娘が今回引っ越したアパートの近くを歩いていたら、横須賀線を走る電車の音を浴びて小綺麗なそば屋があった。雰囲気は美味しそうである。いかにも修行した蕎麦打ち職人が念願敵って開店させたという雰囲気である。こういう店にはずれはない。
 妻はたぬきそば私はもり蕎麦を頼んだ。私は後で掛け蕎麦を追加した。私の好みにあう蕎麦だった。香り舌触り、歯触りがそばの美味しさを感じさせてくれる。辛汁がもう少し辛くてもと思うが十分味わえた。釜前に蕎麦職人が居て、女将さんが客とを繋ぐ。この形も美味しいそば屋に多い。
 横須賀線祐天寺駅学芸大学駅の線路沿い中間にある。
  浅草「尾張屋」
 深川を歩いたあと浅草へ行った。浅草では「並木やぶ蕎麦」に牽かれていたが、今回は尾張屋というこれも老舗の店に行ってみることにした。永井荷風などの文豪も通った店として有名である。
 老舗と言われる東京のそば屋さんは手打ちではないが美味しい蕎麦をさらに美味しく食べさせてくれる術に長けている。庭の景色が良いわけではない。内装に凝っているわけではない。手打ちの美味しさを追求しているわけでもない。ただただ雰囲気が独特なのだ。小気味よい応対、店伝統の符丁による板場とのやりとり、いろんな人がそれぞれ好みの蕎麦を啜っている。酒だってもったいぶった銘柄などない。酒飲みでなくても知っていそうな名の酒が二三種あるだけだ。これがいわゆる江戸下町気質とでもいうのだろうか。「たかがそば」に徹しているのである。小気味よい。
 私も通しに付いた蕎麦味噌と頼んだ卵焼きで「菊正宗」を二本、もり蕎麦をすすり込んで店を出た。半日江戸っ子になったついでに新宿末広亭での円楽襲名興業としゃれこんだ。