がびの・にしんそば

 蕎麦屋さんに入ってもいわゆる種物はあまり食べない。「もり」と「かけ」で私は十分楽しめる。手打ちではないが、丸南・亀田店の「おろしそば」だけはたまに食べたくて入ることがあるくらいだ。
 言葉だけで美味しいといっても裏を返さないと口先だけになってしまう。やっと方向と時間が合って「がびの」を訪れることができた。キタノマシュウとかいう新蕎麦が手に入ったということでご馳走になった。色、かおり、それを生かすべく打たれた蕎麦の口当たりが美味しい。三口ほどつゆなしで食べてしまった。もう残り少なくなった所でもう一度つゆ無しですすったが、馴れてしまったはずの口も鼻もその味と香りを十分楽しめた。
 恵山出身の店主がお母さん秘伝の「ニシン」を炊いて「にしんそば」がメニューに載っていた。私の次に入ってきた女性が頼み、店主とのやり取りで私も食べたくなった。もう一杯はかけそばをと思っていたがにしんそばにした。
 鱗跡がきれいなニシンの幅広の切り身が蕎麦に乗っている。まず蕎麦をすする。もりそばほどの歯ざわりは無いが新蕎麦の香りがかけつゆと魚を炊いた匂いとあいまって素朴な味が口に広がる。あたたかいそばにはこの素朴さが大切だと思っている。関西風の砂糖でむりやりつけたような「てり」もないが、いかにも恵山出身という甘ったるさの無いほろほろっと口の中で崩れる感じがいい。「天抜き」ならぬ「ニシン抜き」で蕎麦前もいいかもしれない。このにしんそばが750円というのは安い。わたしの「たかされ道」に 「種物の部」をつくり上位にランクしておかねばならない。