鬼灯
 鬼灯が色づきを深めてきた。鬼灯は真っ直ぐ母の口元につながる。その口から漏れてくる音に耳と云うより眼を凝らしている幼い日の自分をも俯瞰できる。
   鬼灯の音母の口歪めけり   未曉
 母は男の子四人の末っ子に女の子の遊びを教えた。末っ子の私もまたそれを好んだ。おはじき、ぬり絵、蒲公英での冠作り、着せ替えを得意とした。教えられてできなかったのがお手玉と鬼灯を鳴らすことだった。いくつ鬼灯の中身をぬきだしたことか。母に少し失敗した鬼灯、自分は完全無欠な鬼灯を使っても、母の口元からしか音は出なかった。今思うとその頃の母は、戦争、引き揚げという大きな壁の向こうに自分の少女時代を思い出すゆとりがやっと出てきた時代なのかもしれない。
   鬼灯をふふむ笑顔や母少女  未曉