乙部岳

 乙部岳尾根コースは道がいい。ほとんど全コース土を踏むコースで木の根が段差を作っているような所もないし岩場もない。雨の影響がなければ滑る心配もないようだ。一ヶ所ロープの張られた痩せ尾根はあるが、短いし、少し手を使えばなんなく通れた。沢コースはこういうわけにはいかないだろうから、下りにこのコースを使うのはうなづける。
 細かなジグで高度をどんどん上げていく。その分応える。それが長い。7合目辺りで傾斜が楽になり尾根が広くなった。丈の高い笹が昨日の雨を乗せている。先頭のYamaさんのズボンはずぶぬれ状態である。それを過ぎるとまた細かなジグの道になる。しかし周りは山霧に煙るブナの林が美しい。尾根上の小ピークに立っても展望が全く無いので自分の周りの状況の変化を楽しむしかない。熊でも潜んでいそうな「憩いの岩」を過ぎるとまずエゾカンゾウとトウゲブキの黄色が目に飛び込んできた。よく見ると右側の路肩は急崖になって霧で見えない谷へ落ちている。その急斜面を彩っていた。霧の上に出たのか視界が広がってきた。どうやら頂上も近いようである。エゾシオガマとキバナ、シロバナのニガナに励まされるようにいくつかの小さなアップダウンを乗り越えて頂上に着いた。青空が見える。頂上感を削ぐ無機的な白いアンテナドームが眩しい。以前ドームの反対側から舗装路を歩いてきたとき「今度は正規のルートで…」と思ったことが実現できた。頂上での昼食終了時でペットボトル二本の水を飲んでしまった。後は水筒の750mlだがなんとか間に合うだろう。
 帰りは急斜面に備えてポールを持った。来るとき枝に引っかかって歩きずらかったことも解消できる。頂上から少し下るとまた霧の中、50m視界のヴェールの中は単調であり、校庭が長く感じられる。合目表示の木札だけを目的に歩いた。足底をフラットに着地さえしていれば滑らずに歩ける。それだけに注意して歩いたが、集中を欠いたのか二度尻餅をついた。
 下りが下手な私には道が急勾配で長い乙部岳は体の疲れもさることながら緊張疲れもかなりのものだった。水はほとんど残っていなかった。登山口に着いたときは早く温泉に入り、早く冷たい物を呑みたいと思うだけだった。