滝野庵・大中山店(2)

 店は滝野庵・滝野店とはまるっきり違います。
 滝野の店は黒光りする柱や床、重そうな板襖、低い天井の座敷に上がって少し田舎蕎麦風の蕎麦を店主の狙いに乗っかって啜るのは趣もあったし美味しさを引き立てていました。それに比べて大中山店は、新しい建材で明るく眩しいくらいでした。カウンター席があり、小上がり風の掘り炬燵の席がありました。奥に座敷、座卓もあるようです。以前和食を食べさせてくれるお店をベースに改築したようです。誰にでも来てもらえる蕎麦屋の雰囲気です。玄関には階段の横にスロープがありました。「食いたいやつは来い」という蕎麦屋さんではないようです。蕎麦屋さんの方から近づいてきてくれたようです。
 食べたそばにもそんな感じがしました。私の好みと離れて滝野店よりもう少し田舎蕎麦っぽくなったような気がします。田舎蕎麦こそ蕎麦という人は多いですから…。そして、甘汁もいっそう辛味が少なくなり、あの蕎麦にあの量は私には不足でした。でも、かけそばはその分美味しく感じられました。丼までもかけそばの味を引き立てているような美味しさでした。私は一人だったのでカウンター席に座りました。カウンター席は食べ終わったら帰るだけです。土間の靴を履こうとしたら靴が二足しかありません。「そういえば靴棚に置かなければならなかったんだ」と思い見回したら、カギのかかるようなスチール製のシューズロッカーがありました。
 私は、年に二三回かもしれないけれど滝野の滝野庵に行くと思います。大中山店がみんなに支持されて繁盛するのは良いけれど、滝野店に人が行かなくなり無くなってしまうのは困ります。民家風の店だからいいのではなく、あの店にかけた店主のこだわりや今まで支持されてきた「わざわざ食べに行く」という美味しさを大切にして欲しいと思います。