滝野庵・大中山店(1)

 何か楊枝があって出かけたついでに食べるのが、昔のファーストフード「蕎麦」だったようです。仕事のついで、買い物のついで、飲んだ後などの手軽な「小腹満たし」でしたから、その立地も商店街やオフィス街にあるのが普通だったようです。そもそもは、築城などの工事現場で働く人の腹を満たすために発祥した…と文献には書かれています。
 ですから、人通りのない住宅街や交通の便の悪い街から離れた場所に蕎麦屋が建ったときは新鮮な驚きを覚えたものした。自分が打つ蕎麦に自信のある店主が「食いたかったら来い」とばかりにひと昔前なら通用しない立地条件のところに店を構え始めたのです。駐車場の問題など車社会が後押ししたのでしょうし、また、店構えなど店主が自分の考えにこだわる自由さを追求できるのも魅力だったのだと思います。同時に蕎麦という食文化が「ついで」と言う食べ物でなくなったような気がします。「わざわざ食べに行く」「蕎麦」になったのだと思います。
 厚沢部町の「滝野庵」がそうです。滝野小学校という廃校した小学校のすぐ隣にありました。逆に言うと小学校が廃校になるような過疎の地域に建てた蕎麦屋と言うことになります。移築したと思われる古い農家の土間や板の間や座敷をそのまま活かし、農家にお邪魔して蕎麦をごちそうになるコンセプトで徹底していたように思います。
 しかし「わざわざ食べに行く」人が多かったのでしょう。いつ行ってもお客さんがいました。美味しさの表れだと思います。
 私も好きな蕎麦でした。まずきりっとして舌触りが良く噛むとしっかり蕎麦の味が伝わってきました。甘汁が少し甘めで、蕎麦に合っていたように思います。特にかけそばは「おいしい」とつぶやきが声になるほどでした。と言っても私が食べられるのは江差方面の山を歩いたついでの年に二三回程度でした。
 その滝野庵が大中山の国道沿いに「大中山店」を出したというので今日行ってきました。「わざわざ行く」距離では無くなったのです。