利庵・白金台

 雨の中、一丁過ぎて自然教育園まで来てしまい戻ったところで見つけた。大きな通りに面しているが、並木などがあり、暖簾がかかっているから蕎麦屋だと分かる店構えである。私の前に子どもを連れたお母さんが入った。続けてはいると、満席で今の親子連れと相席になった。雨の日曜日、昼時とはいえ人気が窺える。
 うっすら緑色をしたきりっとした傍が出された。一口啜ると香りが鼻をくすぐる。わさびを使わずに三口それを楽しむ。次にわさびを添えて蕎麦の甘さを味わう。食べる側が蕎麦に期待するものをしっかり持っている蕎麦といえる。向の若いお母さんと子どもの処に若いお父さんが雨を拭き拭き座った。どこかに車でも停めてきたのだろう。「天せいろうと後でせいろう」とメニューも見ずに店の人に通す。奥さんが「のんでもいいよ」と言うと、「お酒とだしまき」と追加する。慣れた感じである。触発されて私もかけそばを追加。期待を損ねない蕎麦の味をゆっくり楽しんだ。
 調理場を仕切る配膳カウンターの下はタンス状になっていて、食器や箸などがそこから取り出せるようになっている。客の椅子もテーブルも使い込んだものらしく蕎麦屋の感じを良く出している。
 小雨の外に出た。傘の下に美味しい蕎麦の余韻がたゆたう。