土山人(1)・青葉台

 渋谷で山手線を降り、娘に教えられたとおり東急バスに繋がる出口に着いた。言われた場所に言われた色の小さなバスが待っていた。載るときに「○○ルートでお願いします。青葉台2丁目というところで降りたいので教えテク下さい」と言えば良いと言われたが、いざ運転手さんに言うときに○○ルートを忘れてしまい、「青葉台2丁目と言うところを通りますか?」と言ってしまった。運転手さんにはそれで通じたらしく「近くなったらお教えしますのでどうぞ。前払いで150円です。」と言ってくれた。安心したらSUICAをタッチするだけでいいものを後ろの人を待たせて小銭入れから出してしまった。
 東京は最初は山手線しか乗れなかったからその駅近くの蕎麦屋さんだけ…。最近はSUICAと言う便利なもののおかげもあって私鉄沿線にその範囲が広がり、ついに今回バスに乗ることが出来た。たかされ探しの範囲を広げられるのは嬉しい。
 店は目黒川沿いの桜並木の下にあった。道路から下に階段があって、草木染めのような風合いの長尺暖簾が下がる入り口に繋がっていた。入るとカウンターだけの小部屋。一人なのでそこに座ろうとしたら、短い通路を抜けて坪庭に面した4人卓に案内された。応接セットのようなテーブルと椅子だがなんとなく落ち着かない。壁一面のガラスの外は高い打ちっ放しのコンクリート壁に囲まれた芝生だけの坪庭。東京らしく、その高い塀の上から隣のビルに覗かれている。落ちつかなさは違和感に育った。メニューを見た。1000円で食べられるものはせいろとかけそばしかない。それも890円である。違和感が強くなる。頼んだ生粉打ちせいろが手の込んだ造りのざるに載って出された。しげしげと見てしまった。また違和感。そして違和感が決定的になったのは蕎麦を食べようとしたときだった。ソファのような椅子でテーブルも低いため体を深く折らなければ口と蕎麦が出会えないのである。背の高い人ならたいへんだろうと思った。