山せみ・渋谷上原

 代々木上原駅からはき出されるように頭の中の地図を頼りに小雨の中へ歩き出した。道路の全てが路地のようでせまい。そしてどの道も駅を背にして登り坂になっている。「山せみ」はすぐ見つかった。小さなビルの半地下にあった。
 昼時だったけれど、すぐカウンター席に案内された。そこは、店内を背にして、前面の大きなガラス張りの向こうに今降りてきた道路が見える。道行く人の雨靴を見ながら待う。
 きりっとした私好みのそばで少し固め。今はやりの「もちもち感」が無いのがいい。特にわさびで食べたときの甘みが何とも言えない。きりっとした細麺なので啜り込んでから口の中でつゆと一緒に泡立つような食感を久しぶりに味わえた。
 当然のようにかけそばの追加。麺の切り方がちがう。太く不揃いで明らかに伸びやすいかけそばを意識しているのが窺える。かけそばはもり蕎麦と違ってひなびた感じになる。きっとそばの香りがより鼻を刺激するからだろうけれど、私にはそれが大切なのだ。ここではいわゆるもちもち感がいい。そば湯もどちらかと言えばさらっとしているが、薄いわけではなく、辛つゆでも甘つゆでも頂いた。
 目の前を行く人の忙しそうな足元を見ながら食べるそばも乙なものである。東京に住んでいたら通いたくなるお店だ。