客あしらい(2)

 先日ラーメン屋に入った。夕方早かったので客は誰もいなかった。アルバイトらしき女の子がカウンターの中の女の人に促されるように注文を聞きに来た。「ご注文は?」という声が緊張しているようだった。どうやらアルバイト初日らしい。そして彼女にとって私達夫婦は最初の客らしい。東京にいる次女も何を思ったかレストランのような所でアルバイトを始めたと聞いたので、思わず顔を見てしまった。「何か?」という風に目を合わせてきた。「しまった。いやらしい目で見てしまったか…」しかし、彼女はニコッとした。全く邪心の無い、こっちまでニコッとしてしまうような笑顔だった。調理場に私達の注文を通すときに「もっと大きな声で…」と言われていた。「はい。」という返事まで気持ちよく聞こえた。
 私達が帰るときは当然彼女にとって最初のレジ打ちの客となる。レシートを見ながら打っていたが覚えたことを思い出しながらなので遅くなった。女の人が私達に悪いと思ったのか途中から手を出して代わってしまった。家に帰っておつりを見たらどうも一人分しか取られていない。一瞬、面倒だしこのままと思ったが、彼女の失敗になって叱られたり日当から引かれたりしたらとても可哀相に思えたので、返しに行った。私達は彼女の笑顔にあしらわれたのだ。