昨日の毛無山の山道中間点に熊の爪痕がある。この山毛欅の幹につけられた爪跡はもう見つけて三年になるがやはり不気味だ。ホイッスルを強く鳴らしながら大石の沼に着いた。
   霧の沼熊除け笛の音を呑み     未曉
 大石の沼を過ぎると、沢の上部をトラヴァースするような所が数ヵ所続く。次第に霧が晴れてきて沢の全体は見えるようになってきた。橡の花が咲いているのが見えた。
   ヤジロベェよりもしっかり橡の花  未曉
 花が一本一本のこずえの先で見張りでもしているかのように直立している。橡の木が夫々の枝先で花をバランスをとりながら遊んでいるようにも見えた。