貧乏山

 昨年、楢山に登ったときよりも約300M林道を入ることができた。除雪されていたからである。狭い路端になんとか車を停め歩き出した。行く手に貧乏山が山の斜面のほとんどを伐採されて、剥がされた皮膚に白いガーゼを当てたような姿をさらしている。すぐ右側に去年歩いた楢山もまた同じような姿で控えている。ゲートを潜りスノーモービルの跡を辿って間もなく楢山への分岐でスノーシューを履いた。左側のスキーのトレースを踏みながら緩やかに登って行く。気温が高い。日差しがあるところでは暑いくらいである。雪も重い。岸の雪が覆いかぶさっているため見えないが、沢水が音を立てて流れている。春の海はのたりのたりと表現されるが、春の川は速い。十分速さを伺わせる水音である。シャッターを押す素手が寒くない。
 一段高い林道に出ると勾配が少しきつくなる。ペースが落ちてきた頃、林道はステージに出るように伐採斜面の中央に進み出る。駒ケ岳が何の遮る物も無く眼前に美しい姿を見せてくれる。「雲がかかっているからいい」とシャッターを切ったり、「雲が離れるまで待とう」と休みがてら立っていたり…。いろんな方向からいろんな季節、いろんな状況でたくさんの駒ケ岳を写している。いつかまとめて整理したら、私のへたくそな写真でも形になるかもしれないなどと考えながら…。
 左側にシュクノッペ川に関わる山々が重なっている。その奥に二股岳が見える。駒ケ岳の雄大な裾野が、凍って白く真っ平らな大沼で終わっている。散村のような家々、道路や畦が雪原に方形の耕地をモザイクしている。我々の乗ってきた車まで見える。曲線の雲の影がゆっくり噴火湾に向かって移って行く。
 北進していた林道は山肌に沿って東へ回り込む。頂上はもう小高い高まりでしかない。林道を捨てその高みに向かって直登した。頂上標識があるような山ではないし立ち木が伐採されているので行く手を阻むものも無い。ドカドカ歩きを楽しみながら、勝手に一番高い所を頂上とした。駒ケ岳を堪能しながらの昼飯になった。下の方から昼を告げるサイレンが聞こえた。
 昼食後、いったん林道まで戻り、小さな沢を挟んで七飯スキー場がすぐそばに見えるところまで登った。そこも伐採されていた。夏は、切り株が墓のように立つ伐採地なのだろうが、今はまっさらな雪の高原である。見た目私でもスキーを楽しめそうな斜面が広がっていた。
 地図には「貧乏山」と載っているが、どの看板にもどの標識にもその名前は見られなかった。実際に使う時、使う人には嫌われるのだろう。