汐首無線中継所(2)

takasare2007-12-21

 アンテナのある頂上部から枯れ草となった牧草斜面を鞍部めがけて下った。所々、霜で盛り上がっていた細かな礫を踏む。空足を踏んだようになる。11時半。もう一つの丘状のピークを登ってしまってから昼にしようということになった。つまりそのくらいの登りでしかない。その丘の上に見えていた軽トラックが下りてきた。牧場の見周りをしていたらしい地元の人が乗っていた。「馬は冬もそのままだ」「6月になれば見事な躑躅だでー」「天気いいば下北のろり見えてかえって函館の方がはっきりしねぇくれぇだ」と言っていた。
 海に面した斜面をトラバースするように作業車道がついている。「エゾ鹿と道産子を間違えて撃たない様に」という看板が立つゲートがあった。バラ線の柵はあるが、肝心のゲートは外れて寝ている。道は両側が柏の林になっている。焦げたような色に変わっているが葉が十分ついているので風除けになってくれている。頂上部はなだらかな牧草地で車もどこでも走れるようだ。さっきの軽トラの跡を辿った。起伏の陰から馬が見えた。二頭。一等は黒っぽい栗毛、もう一等は白馬だ。どうしても白馬にカメラを向けたくなる。白馬は嫌がるように後ろの低木の木立に中に入っていく。近づこうとすると、もう一頭が真っ直ぐ馬首を我々の方に向け明らかに警戒感をあらわにする。これ以上刺激できないような気がした。白馬は雌馬で、栗毛は牡馬で二頭とも若いのだ。向こうのピークの群れと離れて…と考えると我々は野暮である。野暮を押し付ければあの栗毛が騎士のいない騎士道を発揮して我々は蹴散らかされるに違いない。こんな寒い風が吹くだけの冬の牧場にもこんな想像が許される場面があるのである。歩くということの面白さだろう。ピークを乗っ越しさっき軽トラを見上げた鞍部の底をめがけてまた牧草の斜面を下った。バラ線でさえぎられたので寝ているゲートまで行きそこで昼飯にした。
 帰り、海峡を見ながら下りた。地元の人の言葉ではないが、天気がいくないので下北は見えない。海峡中央部で雲が紗を下ろすように崩れている。雪でも降っているのだろう。その雲が北上してきたと思ったら霰が降りだした霰と気づくと同時に笹が音を立てた。せきたてられるように帰りを急いだ。
 いつも通るいわゆる下海岸道路。わずか登っただけのところで楽しい歩きができた。カタクリの頃、躑躅のころ来るのもいいなと思った。