艸菴(1)・札幌市

 うまい。こういう蕎麦が食べられると「たかされ道」やってて良かったと思う。香りが素晴らしい。「蕎麦だっ」と思う。打たれ、茹でられているのにそば粉を感じることができる。そば粉が活きている。きっと打ちすぎていないのだ。二口そのまま食べた。口一杯に蕎麦の味が広がり、鼻にかおりが通っていく。小ぶりの笊に盛られて出てきたときは、少ない感じがしたが、その量で十分味わえた気がした。少ない量で満足できたのは初めてだ。辛汁も少なかったが、辛目で蕎麦に少しつけるだけで十分だったし、濃く白濁した蕎麦湯で割り飲むまで計ったような量だった。久し振りに掛け蕎麦を追加した。美味しいせいろを食べさせる店は往々にして掛けそばを作らないが、ここにはあった。
 熱々の汁の中に細めの蕎麦が見える。すぐ伸びてしまいそうなのですぐ食べる。予想通りというか予想以上の蕎麦の香りが湯気に増幅されて鼻を覆う。旨い。蕎麦を味わうには「もり蕎麦」だが、私が好きな蕎麦は「掛けそば」だ。私の蕎麦の原点が祖母が作ってくれた、あったかい湯気と醤油しょっぱさの汁の中の蕎麦だから仕方ない。この原点である祖母の味を思い出させてくれる蕎麦が私の「好きな蕎麦」なのである。祖母の作った素朴な醤油しょっぱさは薄いが、だしも利いているし、しっかりした味で蕎麦を引き立てている。いつもどおり七味を入れてしまったが、少し後悔した。この汁も蕎麦湯で割って全部戴いた。すっかり満足した。
 今回の札幌行きで4軒の蕎麦屋さんをノミネートした。そのうち2軒は店を閉めていた。艸菴の蕎麦を札幌の皆さんでぜひ大切にして欲しいと思う。