思い立ってねぶたを見に行くことにした。JRを使えば見物席付きの往復の乗車券がある。午後出かけて夜中に帰ってこれる。12000円ほどでこれが高いか安いかはわからないが手軽ではある。申し込んだら間に合った。
 ねぶたは前から見たいと思っていた。
 祭り踊りや、盆踊りが好きで、町内会の盆踊りが学校のグランドなどでやられていると一緒に入って踊ったりもしていた。このごろはおやつほしさの子どもだけになってしまい、子供向けの踊りは知らないので踊れなくなった。私のように、子どもに迎合するあまり踊りに参加できない大人が増えたり、古臭いとかテンポが会わないとか言って敬遠する若いお父さんやお母さんが増えたりで、大人の部ばかりか子どもの部の踊りさえ危ぶまれ始めているようだ。大人の部をやっている所はあるのだろうか。イカ踊りにも参加した。でもなぜか恥ずかしさが付きまとう。すぐ覚えられる。誰でも踊れるという点では優れているがどうもイカになって踊っても忘我の踊りにはならない。だからはねとが踊り狂うというねぶたを見てみたかった。できれば体験したかったので荷物は背中に背負えるようにして出かけたほどだ。
 もう一つの理由は、棟方志功である。棟方志功の絵が好きで部屋中に志功作品が飾られているほどだ。もちろん本物ではない。ある青森の企業が棟方作品をカレンダーにしているものを毎年手に入れそれを捨てられずにはっているうちに部屋中になってしまった。棟方志功はねぶたが大好きで、相好を崩してねぶた祭りに参加している写真は数多い。あのエネルギッシュな作品を生み出す棟方志功が愛したねぶたを見たいと思っていたのである。
 夕方4時に着いた。駅から伸びる新町通りははねとの衣装を身に着けた女性が祭りの雰囲気を作っている。もうすでに焼きそばがパックにつめられ、飲み物が氷のたらいに鎮められている。ねぶた運行までには3時間もある。コース沿道にはパイプ椅子が並べられ観客席が作られている。その一角にある我々の席を確認して、私はその3時間で蕎麦屋を2軒巡った。一つは東青森駅の近くの「青森鞍馬」でもう一つは駅前繁華街の中にある「横丁」という手打ちそばを食べさせてくれる居酒屋である。移動にはJRを使った。「鞍馬」から帰りの電車は、祭りのあでやかな興奮を詰め込んでいていい雰囲気だ。赤いたすき、花笠、浴衣のあちこちにつけられた鈴の音、おしゃべりしたり、お互いの衣装を直したり…。親子連れ、若夫婦、独りでいる人でさえ、ねぶたの会場のどこかで誰かや仲間と一緒になるのだろう。乗客全員が祭りに参加する人か祭りを見に行く人かの二種類しかいない。私もさっきもらった祭りのパンフレットと団扇をこれ見よがしに手に持ったりした。乗客みんなでお互いにモチベーションを高めあいながら青森駅に滑り込んで行った。