アンナプルナ・ダウラギリ展望トレッキング(3)

  4/1 カトマンズ〜ポカラ〜チャンドラコット(後)
 のぼりも無いトラバースのままチャンドラコットのロッジについた。尾根の先端のような所で左右に大きな谷が切れ込んでいる。ちょうど船の舳先にいる感じがする。ロッジの前に大きな菩提樹があり、その根方を取り囲むようににチョータラと呼ばれる憩いの場がある。板状の石で土の流出を防ぎ、腰掛けられるようにしている。そういえば、重い荷物を背負って行き来する人達のためにも途中途中にチョータラはあった。カトマンズにも在った。カトマンズでは暇つぶしに使われているようだった。そういえば釈迦も菩提樹の下で教えを広めたというからこのことかもしれない。その傍に屋根のかかったテラスがあり、テーブルがおかれていた。ロッジとテラスの間にコンクリートで作られた水場が有り女性が洗濯をしていた。ロッジ名は「Nirbana」。ここの奥さんの名前だそうであるすると今洗濯している人がきっとニルバナさんなのだろう。
 洗面器のお湯で汗を拭き割り当てられた部屋に入った。2畳強の部屋に寝袋幅のベッドが二つ、隣の部屋とは薄いベニヤ一枚で部屋が3つ離れていても会話できる防音効果ゼロの壁になっている。前回のランタンはテントだったので、エヴェレスト以来のロッジで少し懐かしい。着替えたり荷物の整理をしたり、午後全部が自由時間なのでゆっくりする。肝心の山は見えない。(山1日目だけでなく、それ以降毎日、朝は晴れても、午後になると決まって雲が出て山は見られなかった。)函館5人組は、カメラを持ち来た道と反対側舳先に向かって右の尾根下のトラバース路を散策した。ツァーリーダーの言う絶景ポイントまで行ってみたが、アンナプルナもまちゃぷちゅれも見えるはずが無く、学校の教室を窓越しに覗いたりした。夕方にはテラスで九州の女性組に誘われてトランプばばぬきをやったりした。何年ぶりだろう。思い出しながら二度ほどやった。罰ゲームがあり、負けたKuさんとSaさんが歌わされた。テラスの周りはいつしか暮れなずみ、暑さも穏やかになり春である。霞がかかり物憂い。春宵の一刻である。ぼんやりしているとぼんやり時間が過ぎてゆく。だからぼんやりしていた。
 夕食は、カツ丼 野菜、味噌汁で極めて日本人好みの味に近い。ロキシー(稗から作る焼酎)を頼んだ人から少し分けてもらったが薄くて美味くない。食後は自己紹介をしたり、北海道と九州の山談義に花が咲いた。
 夕日が舳先の前方に沈み、菩提樹が黒いシルエットになる。大きな竹の先から長い穂のようなものが霞んだような青灰色の空に垂れている。やがて我々が来たポカラの方から満月が昇ってきた。少し朧に見えるが、星を消す明るさで中空を目指す。「星」と思ったが、谷を挟んで対岸の山肌に灯りが点った。あんな高いところに人家があり、そこま電線が伸びている。まるで空の高さだ。星でいい。春宵一刻値千金とはよく言ったものだと思う。この後は寝るだけだから…。
   ネパールの春宵山家の灯を星に   未曉