八十八(2)

 店に入ったとき「打ち場」があったことを思い出して見ようとしたがこの独り席からは角度的に無理だった。打ち場があって、実際に打っていると、いかにも出される蕎麦が打ちたてに思えるから期待は高まる。
 もり蕎麦が出される。焼き物の皿に盛られ、そろいの蕎麦徳利にたれ、蕎麦猪口と蓋の小皿の薬味がついている。一箸つまむ。今の時期私の口は蕎麦の味より先に冷たさを感じてしまう。舌を慣らしてもう一箸。じわっと味と香りが感じられる。水切れが今一つなのとほぐれが悪く丁度よくつまめないのがもどかしい気がするが、舌触り喉越しは美味しい。江戸風のたれほど辛くは無いが北海道に多い甘いたれでもない。わさびがいい。わさびを付けて食べると蕎麦の美味しさが引き立てられる。蕎麦湯までわさびが残るかどうか気にしながら食べた。口開けの客なので、蕎麦湯はさらさらのお湯でしかなかった。打ち場があるならもう少し濃い蕎麦湯を工夫できそうな気がする。折角のたれを生かすためにも。
 今朝は朝食が遅かったので、かけそばはこの次の展覧会鑑賞の機会になるだろう。展覧会〜八十八はパターンになりそうである。