熊谷岳〜間宮岳

takasare2006-08-21

 霧の中を歩いていると自分の周囲10mくらいしか視界がないから地形の状況、位置、高低、広さなど自分の位置的なアイデンテティーの確かめようが無い。浮遊感にとらわれる。人間は自分の存在感を自分の場所から外を眺め、そこと比較して初めて確認できるのだろう。私は、旭岳から後旭、黒岳方向へ下りながら、今確かに旭岳山頂を踏んできた事実でその実感を反芻していた。それほど霧は深かった。火山礫の急斜面は足の下し方を間違うとパチンコ玉の上のように滑ってしまう。ダブルストックのYaさんとKoさんは早い。ストックの無い私はほぼ後ろ向きのようなへっぴり腰で降りるしかない。どんどん差がつく。Yaさんがたちまち見えなくなる。5人が連なっているのでルートはわかるがあせってしまう。右側に大きな雪渓が現れる辺りでやっと腰が伸びてきた。降り方が上手くなったのかなと思ったら、傾斜が緩やかになっただけだった。雪渓から流れ出る小川を渡った辺りから間宮岳への登りが始まった。大学生の一団と出合う。今朝4時に黒岳の石室を出発したとのこと。彼らがどんなコースを計画しているかはわからないが、5時間行動してまだ大雪の上にいる。この山塊の大きさがわかる。それにしても普段、山の中にいるのは中高年ばかりだが、さすが大雪山、若い人も歩いている。気持がいい。特に若い女子大生を見るとなぜか、自分も若いような錯覚を覚え、内心にやっとしたりする。これも一つ大雪山が感じさせてくれる存在感かもしれない。
 気温が上がってきたのか、熊谷岳の辺りから明るくなり、間宮岳では、前方に緑色の山肌が迫るように姿を現しだした。霧がどんどん飛ばされて右手に大きな大雪の火口つまり「お鉢」が白茶けた底を見せてくれた。立っているのが間宮岳、右手からまだ霧に少し隠れているが、荒井岳、松田岳へと尾根が続き、その先に三年前白雲からその裏を眺めた北海岳が完全に姿を見せている。北海岳の左肩には赤岳が空を刺し、ちょうど真向かいの辺りに、黒岳が石室まで見せてそびえている。稜雲岳、北鎮岳、中岳からこの間宮岳へと巨大なお鉢を2000m級の外輪山が囲んでいる。旭岳こそまだ霧の中だが、お鉢の全貌を目の当たりにするとこの大自然の中で自分が急に小さく感じられる。霧の中では、自分だけだったが、霧が晴れると山も空もお鉢も高く、広く、深く私は小さな存在になってしまう。
 間宮岳から中岳分岐に下った。中岳分岐でKoさんの地図を見せてもらった。尾根を辿って中岳温泉へ降り、広大な裾合平を縦断して姿見駅まで相当ある。
 そこを歩く自分がいる。裾合平の中にうねうねと伸びる道を歩いている自分が見える。