「まつや」東京神田

 丸の内線を淡路町で降りて、須田町方向の出口から神田の街に出る。
 書いているとそれだけで江戸の粋な気分になってしまいそうな地名が続く。お上りさん丸出しである。陸橋を渡っているとそこからもう「まつや」は見つけることができた。11時開店をわずかに過ぎているだけなので、客は少ない。6人掛けテーブルの壁際に座る。背もたれのない椅子をまたいで腰を下ろした。
 もり蕎麦を注文した。薬味は葱だけ、辛そうなつけ汁が蕎麦猪口に三分の一ほど。一箸口の中に入れる。二噛みほどで、口いっぱいの蕎麦の香りが鼻に抜ける。二口目、たれを四五本のそばの先端につけてすすりこむと辛汁に引き立てられるように蕎麦のひなびた味が口に広がる。うまい。東京の真ん中でこんな早い時間にこんなひなびた味を味わ得ることを不思議に感じた。わさびを付けない理由がわかった。一気に食べてしまった。少し重めの蕎麦湯で残ったたれを楽しんでも11時20分、「神田藪」の開店11時半には早すぎると思いながら、店を出ることになってしまった。