ひとやすみ

 県名で言えば青森から京都まであらかじめ得た情報をもとに、各地の蕎麦を食べ歩いた。私なりに「これぞ名店」というお蕎麦屋さんにも行けたと思うが、知らずに前を通り過ぎた名店も数多くあったに違いない。この旅を終えて「蕎麦紀行」としてまとめその序文にこう書いた。
 …前略…食べるほうの「されどそば」はないのだろうか。たかが道南ほどのせまいところでうまいのまずいのと言っていていいのだろうか。それより、ほんとうにそば職人の「されど」を味わえているのだろうか。そんな思いでそばを食う旅に出た。
 たかがそばである。飛行機や列車を使い旅館に泊まる旅では周りの人間に笑われるだけではない。そばに笑われる。…中略…
 うまいそばはたくさんあった。食べる人と打つ人が歴史をかけて育ててきた「郷のそば」も、粉、水、打ち方から店構えまで練り上げた「職人のそば」もあった。そして、その蕎麦を遠くから食べにくるそば好きがたくさんいた。開店時間になると湧き出るように客がそば屋の前に現れた。もしかしたら、食べる側の「されど」は、こんなにたくさんそば好きがいてそばを食べ歩いているというそのことなのかもしれない。「おいしいそばがあったらどこでも行くよ」それが食べるほうの「されど」なのだ。

 この旅は、退職して時間が自由になったら是非やりたい旅だったし、やってみて自分で考えた以上に有意義だった。人から見れば、ばかげていることは重々承知の上で…。だからまた出かける。道北、道東も行きたい。東京も四国や九州のそばも食べてみたい。ひとやすみしたから…。