「そば蔵やま元」江差いにしえ街道

 美味しい蕎麦である。噛むと甘さを感じる味と喉の奥の方に残る香りが確かな蕎麦の仕上がりを示している。倉庫を改築して作った店内は、低い梁を生かし、白い壁、木製の調度品で落ち着いた雰囲気をつくり出そうとしているが店主のコンセプトが店全体に行き届いていない。客の応対、整理整頓などが中途半端な感じがするため、かえって落ち着かない。天然木の一枚板の立派なテーブルに座ったが、目の前にはスポーツ紙やら女性誌やら週刊誌やらマンガやらが山積みされていた。その中には随筆、俳句、短歌など地元の書き手で作られたタウン誌が押しつぶされるようにはさまっていた。ここの蕎麦は、そんなタウン誌を読みながら待っているのが似つかわしい蕎麦のような気がした。もちろんマンガや週刊誌、新聞はあっていい。どこか棚でも作って…。開店当時のコンセプトはきっとそういうものではなかったかと思った。
 されど蕎麦の「されど」には落ち着き感というかあずましさが加味されていいと思う。それは蕎麦を美味しくはしないが、無いと不味くなる。おちつきの無さの最大の原因は、コンセプトの中途半端さがつくり出していることが多いように感じる。