「かね久山田」宝来町

 函館の名店である。蕎麦の話題になると必ず出てくるし、それだけ地元の人に支持されていると言う意味でも、名店の名にふさわしい。
 am11:25分に行くと、案の定暖簾は出ていない。周辺は車も多いし住吉浜の波を見ながら時間をつぶし、35分に駐車場に車を入れた。駐車場にはすでに3台はいっていた。店に入ると驚いたことにすでに満席に近い客だった。まだ昼休み前の時間帯である。明確にこの店のそばを目的に来ている人たちなのだ。
 壁に向かったカウンター席に一つ見つけ割り込むように腰をおろした。もり蕎麦を頼む。両隣は30才台の男性。左側の客はもうすでにもり蕎麦の一枚を平らげ二枚目をすすりこんでいる。右隣はざるそばを食べ終わりそう…と思ったら、かけそばが隣に置かれ、箸はそのまま蕎麦丼に向けられた。二人とも相当食べなれていると言うかパターンができているようだ。といって、蕎麦をただ流し込んでいると言うわけではなく味わって食べている。左の人はスノコに箸を立てて最後の一片も残さず食べたし、右の人は蕎麦も蕎麦つゆも蕎麦湯も一口一口楽しむように啜っていた。なんと左側の人には、食べ終わった二枚の蒸篭を押しのけてかけそばとご飯がおかれた。
 頼んだもり蕎麦が来た。他のどの店にも無い食感を味わうことができる。パキパキとした感じで、これが、呉汁をつなぎとする津軽蕎麦の味だと思う。すこし辛目のつけだれなので
箸で取った蕎麦の5〜6〓をつけてすすりこむ。そばの香りがのどの奥のほうでチリリと感じられる。これで350円。当然かけそばを追加する。煮干が主体のだし汁は、醤油色が薄い本州のかけ汁に近い。これも350円。確かに一杯の量は少ないが、他店一杯分の値段でもり、かけが楽しめるとすればこれはうれしい。
 かね久山田で女性と蕎麦についての私の偏見が覆される。一つは若い女性の一人客が普通に見られることである。他店では、お年寄りが一人で蕎麦を楽しんでいるのを見かけるが、若い人はほとんど無い。若い人が一人でも入りたくなる蕎麦屋さんということなのだろう。
もう一つは、蕎麦の茹で方である。かね久は女性だけで経営されている。当然釜前も女性のはずだが茹で方が私の口にあっている。私は常々、女性の釜前は蕎麦をやわらかく茹でてしまいがちではないかと思っていたがその偏見はここには通用しないのである。
 700円払って外にでた。周辺の車は無くなっていた。あの車は、開店前に来て待っていた人たちの車だったのだ。蕎麦好きは…