「志ら川」湯の川

 店のキャッチコピーが「江戸流手打ち二八そば」とある。私の好きな店の一つである。
蕎麦の味がしっかりしている。香りはそれほど強くはないがそば特有の舌ざわりやほのかな甘みを感じることができる。猪口にもりきりの辛汁に太くなく細くない麺を、少しだけつけてすすり込む。うまい。蕎麦の持つ素朴さよりも、江戸の町人が大切にした「粋」を感じてしまう。
 一人分の蕎麦を秤できっちり測る。釜の湯がしっかり沸くのを待って蕎麦をほぐし入れる。箸への掛かり具合で湯で按配をみる。ざるにあげ、冷水であらった蕎麦を、何度も笊の底をたたいて水気をすっかりきる。セイロに盛るときも、丁度よく箸に掛かるように上から何度かふりかけるようにして盛る。しっかり身につけた手順どおり蕎麦を供する。食べる人のみになって考えたことをまじめに几帳面に実行している。店主の姿勢がうかがえる。そしてそれが、カウンター越しに手に取るようにみることができる。
 私は、蕎麦の切れ端一本も残さず食べるようにしているが、水切りが悪く、おしまいにはそば粉が解けてしまったような水の浮いたスノコの蕎麦を食べるのは後味を悪くすることこの上ない。その点ここの蕎麦は、最後までしっとりさらっとしていて小さな切れ端もおいしい。江戸流と書いてあるから粋に感じるだけでない。店主の姿勢に「職人」を感じるからだと思う。カウンターで食べていると、ころあいを見て店主自らが蕎麦湯を出してくれる。函館には珍しく、濃い目の蕎麦湯である。少し辛めの汁を割っていただくと、蕎麦の香りが口に広がる。せいろ一枚550円。
 いつか車無しで来て、蕎麦前の一杯をやりたい店である。