「あらき」(1)村山

takasare2005-07-26

 蕎麦に関する情報誌の多くに登場するのが「山形県村山市・あらき」の名前でした。評判の店はそそられます。
 西川町の道の駅からそう遠くないので、道の駅の朝風呂に入った。村山市への途中、河北町の小学校陸上競技大会を見たり、思いつきで紅花資料館を見学したりして時間をつぶした。「あらき」を探しながら細い道を辿ると、静かな住宅街の中に看板を見つけた。それでもまだ開店前だったので、芭蕉奥の細道・三難所」の一つが近くにあることがわかりそこを見て来た。
 「あらき」に入ると土間。靴を脱いで二間続きをぶちぬいた畳敷きの居間ふうの部屋に上がる。長机が平行に置かれていて何列目かの端に座った。車のキーを左脇に置いたが、そこは縁側の板張りの床だった。日本人なら必ず落ち着ける設定の中で蕎麦を味わってもらおうと言うコンセプトなのだろう。
 女の人が注文を聞きに来た。うすもり、田舎もりとあったが値段の低い方がふつうのもりにあたるのだろうと予想して頼んだ。すると「ニシンはどうしますか」と聞かれた。ふだん蕎麦前の一品料理など食べていないので少しうろたえたが、「あらき」の名物として「身欠きニシンの味噌漬」が情報誌にあったことを思い出し、「それもお願いします」と答えた。このあたりの押し付けがましくならない声がけのタイミングの良さや客あしらいの善し悪しは、店の印象ひいては蕎麦の味にまで及ぶようだ。私は自分の舌に絶対の自信を持っているわけではないので、そんなことでうまいと思ったり、この次は来なくても良いと思ったりしてしまう。
 ニシンは美味しかった。身欠きニシンの独特の香りが残っているし、あの堅さはなく、箸でほろほろとほぐれ、塩辛さもしつこくなかった。がぶりと食べるよりは、日本酒を飲みながら箸でつまむように時間をかけて蕎麦前を楽しむには最適の一品と思った。こういうとき車がうらめしくなる。
 板箱の中の太打ち、田舎蕎麦、これがこの地方の蕎麦なのだろう。つけ汁も少ない。たれを少しつけて
ずずっと啜り込み、口の中で噛む時に広がる蕎麦の味と香りを楽しむ…。箸にかける蕎麦の量が多くならないよう気を配りながら食べた。
 食べている途中、客が来た。中年の女性二人におじいちゃん。座るなりうすもりを頼んでいた。蕎麦好きのおじいちゃんを娘が連れて来てあげたのだろう。「あらき」はこういうお客さんに支えられているのだろうと思った。(写真ー食べかけのニシンで申し訳ないのですが、あまりにおいしかったので)