《「粋」の真似》 

 男親は自分の子どもに仕事のこと、職場のことなどは余り語らない。どこの父親と息子の関係もそうなのだろうか。少なくても私は子どもの頃、家での父以外の父を知らない息子だった。ただ父が退職してからは
父も余裕ができたのかこちらが大人になってきて、話が通じるようになったと思ったのかいくつか話してくれたことがある。
 その一つが「うなぎ」である。父は勤めていたころから土用の丑の日の前後には必ず鰻屋うな重で一杯やることに決めていたそうだ。公務員の安月給で食べ盛りの男の子3人を育てていたのである。鰻は毎度毎度食えるものではなかったにちがいない。
 それでも家族の知らない所で自分だけで年に一回鰻を楽しむ…。私はそんな父に粋を感じた。そして、私も今それをまねしている。
 函館本町「鯉之助」が、父が年に一回行っていた鰻屋である。土用の丑の日にはまだ間があるが、今日行って食べて来た。年に一度の贅沢な昼食である。それが粋に見えるかどうかは自信がない。