「桔梗庵」桔梗

 自分は蕎麦好きなんだなーと思わせてくれた蕎麦屋さん。つまり私の「たかされ蕎麦放浪」の出発点の蕎麦屋さんが桔梗庵である。
 亡くなった兄貴から桔梗駅の所に在る「桔梗庵」のそばはうまいぞ。と言われて行ったのが初めてだと思う。知人の弟さんが始めた店とも聞いたので客集めの口宣伝だろうぐらいに考えて行ったような気がする。
 その時食べたかけ蕎麦は、行き当たりばったり入って食べていた蕎麦屋の麺類とちがってまさしく蕎麦だった。当時若造の私に本当の蕎麦が分かろうはずも無い。ただ、子どもの頃山形出の祖母がたまに食べさせてくれた蕎麦がきを思い出す味だったのである。だしの香り、醤油の香りと蕎麦の香り、かけ汁の味と蕎麦の味…。その時の蕎麦の美味しさの大部分は懐かしさだったのかもしれないが、それが私にとっての美味しい蕎麦の基準になった。
 だから、時々食べに行くし、蕎麦を食べたい人がいればまず桔梗庵につれて行く。
 今日ご主人に借りていた本を返しがてら、かき揚げ蕎麦を食べて来た。無職男の強み、おかみさんが暖簾を出している下をくぐるようにして入る。少しでも打ち立てに近い時間で蕎麦の香りを味わいたいから。食べはじめてすぐ蕎麦の量を多くしてもらえばよかったかな?と思った。
 その桔梗庵が店の改築をするという。今回のたかされ紀行では、蕎麦屋の店構えを蕎麦の味にしようとしている店が多いことを教えられた。
 素晴らしい景色を二面の壁をガラス窓にして借景として取り入れていた店。小さくて暗めだけれどあらゆる木部が黒光りする程磨かれて清潔感の在る店、そこにいる客がみんなちょんまげ頭でもいいような店だった。わらぶきの農家の居間に長机を並べて素朴感を出そうとしている店。
 どんな店になるのだろう。愉しみだ。出来上がるころは新蕎麦の頃かな?