13/9/26・朝市

 函館駅を出て倒れるように朝市方向へ足を向ける。駐車場には大きな観光バスが停まっている。どんぶり横町の切れ目から伸びる朝市中通りには既にたくさんの観光客が肩をぶつけ合って見物や買い物に右往左往している。あえてその真ん中に身を委ねるように歩き入る。
 甲高い中国語、まとわりつくような東南アジアの言葉がまわりから浮き上がって耳に届く。函館弁の店主に関西弁の客が応える。どっとあがる笑い声。店先の丸テーブルで発泡スチロールの皿のイカ刺しを食べている若いカップルがいる。「函館の朝イカうめぇーべさ」と声をかけたくなる。ウニ丼を食べさせる食堂でも何組か卓に着いている。一月前の八尾で観光客をしていた自分を思い出して苦笑する。
    朝市に海山の秋故郷(くに)言葉   未曉
 朝市の雑踏から零れるように巴大橋の下に出る。薄くなった秋の陽ざしの下、釣りをする人も見えない板張りの海岸は朝市の喧噪とは真逆の長閑さである。空き地の向こうの通りを見ても、朝早いせいか赤煉瓦倉庫群の方向への人の流れもない。人ごみを抜けたのになぜか早足になってしまう。急ぐこともないのに。