岩内岳(1)

 岩内岳に登り下山してそのまま海鮮料理で有名な高嶋旅館に泊まろうというわがままな計画だったが天候がそれを許してくれなかった。
 25日は登山予定の早朝出発だったが、雨含みの不安定な予報だったので登山は翌日にしたため、大湯、神仙沼、木田美術館を巡って時間をつぶし、本当は心おきなく過ごしたかった旅館の夜も少しブレーキのかかった飲み食いになってしまった。我々の出発ために早めに用意してくれた朝食を堪能して前日確かめておいた登山口へ向かった。
 岩内岳には新旧のスキーゲレンデがあり、登山口は旧スキー場のリフト山麓駅にある。広く刈り払われた道を歩き出す。道は石が浮いた赤っぽい土で昨夜まで降っていた雨で滑りやすい。草を踏むようにして登っていく。作業道に使われていた道らしく2m巾もあるが両側の草丈があるため見通しが悪く風も来ない。猛暑のため3週間ほど歩いていないし、昨夜の飲み食いもある。ゆっくり小さな歩幅で登る。衣服調整でベストを脱ぐ。旧リフトの第一リフトを上り詰め第二リフトの乗り口から鉄柱を数えた。7本ほどある。しかし登山路は大きく右にそれていく。林間になり日光は遮ってくれたが、同時に日も陰ってきた。休み無い登りは大きな弧を描くように徐々に再び旧リフト鉄柱に近づいていくようだ。昨夜あれだけしゃべっていたのに誰もが無言である。撮るべき花もないのか撮影タイムもない。休みたいのか時折見られるキノコが話題になるがそれも途切れがちである。ようやく鬱そうとした木々に埋もれるように旧リフトの最終鉄柱の側を過ぎた。1時間30分。梅沢さんの夏山ガイドでは1時間20分とあるので、我々としてはいいペースである。
 この鉄柱を背にしたとたん道は岩と岩の間を踏むような登山路になった。岳カンバや岩をつかみながら高度を上げる。振りむき坂、松風の回廊と書かれてあるところを過ぎる辺りから暗さをました空は雨を降らせ始めた。ついに雨具の上を着る。蒸されて登る。雨脚は激しくなく、いずれ上がりそうな気もする。見通しの悪いため登りのつらさに気が向いてしまう。

8合目の標識を見てやっと「登れそうだな?」という気になる。次第に木が少なく低くなり、ザレ場になる。本当は見晴らしが良く登山の醍醐味を味わえ、疲れも飛ぶのだろうが、何も見えない。元気な新ちゃんや館脇に先頭を歩いて貰い付いていく。彼らの姿を追うようにガスの中に立つ9合目の標識を超え、もう一つぽこを超えてやっと山頂を眼にできた。雨は気にならなくなっていた。11時7分山頂。3時間10分ならまあまあか。コンディションを考えればいいところだろうと自画自賛する。頂上に展望はなかった。