伊達紋別岳(3)

 一服広場を過ぎると今日のような霧がなければと言う条件付きだが、快適な稜線歩きになる。馬の背のような尾根のアップダウンが続く。5M位の視界しかないがミヤマアズマギクミヤマオダマキが誘導灯になって道を繋げてくれる。霧が晴れて終うと逆につまらないのかもしれない。深い霧が高度感を持たせてくれるし、花の色も冴えて見せてくれる。少々自信のある私の体内磁針は既に360度くるくる彷徨っている状態だが、想像力がフル稼働して絶景を霧の向こうに描いてくれる。高度計は既に頂上の高さに近づいているが、アップダウンしながらその高さ維持して続いている。アップしてみはらし平へ、ダウンしてシラネアオイの壁と呼ばれるところへ…。しかしシラネアオイは花影の一つもなく大きな葉が霧を動かそうとでもするように揺れたいるばかりだったが…。
 霧の中から二人の人影が現れた。自衛隊先行者だ。頂上を降りてきて危険箇所と思われる処を偵察したり、マーキングしたりする役割の訓練なのだろう。後続の隊列に我々が行くことが伝えられた。全員が藪の中に身を入れて道を譲ってくれた。山道で閲兵でもしているような形になった。「私が太っているからと言ってこんなに広く道を空けなくてもいいのに」と言って変に照れくさい気持ちと軍隊嫌いををごまかそうとした。数人が笑ってくれた。自衛隊員の前を通るよりエゾカンゾウの霧に負けないオレンジ色の前の方が、タニウツギのピンクの花の前の方がやさしい気持ちになれる。最後のあがきのような小さなアップダウンを越えて頂上に着いた。やはり何も見えなかった。
 いっぷく広場まで下がって昼食にした。3合目辺りからの急な下りにも滑ることなくこの山道は柔らかくしっかり支えてくれた。私達が登山口に降りたときにはもう自衛隊の車はなかった。我々のためにふらずに我慢していた空からこぼれるように、雨滴が脱いだ山靴を濡らした。
 見ることの出来なかったシラネアオイとスズランと眺望を楽しむべく再訪しなければならない山となった。