恒例、大千軒岳(1)

 目覚まし一時間前に目覚める。西空を見ると赤い月の左上が囓り撮られたように欠けている。私の目ではそれ以上に詳しくは見えない。慌ただしく仕度して桔梗野の中の集合場所に行くとKu氏とTa氏が既に来ている。先ほどの月食はもう沈んでしまい、蓋をするように薄紫の霞がたなびいている。快晴、微風、爽快の山行となりそうだ。
 8時20分旧道登山口から歩き始める。久しぶりの人もいるし何より自分のためにゆっくりペースの登りを心がける。ギンリョウソウ、ユキザサ、ツクバネソウ、マイズルソウのジグを登る。ふだんと違うメンバーなので話が途切れない。50分で標識。休憩する。ベストを脱ぐ。ツバメオモトが出てくる。尾根下をトラヴァースしながら高度を高める。花の付いたツバメオモトが目立ちはじめ、フギレオオバキスミレが日当たりの良い所に小さく群れてさいている。左に開けた斜面では新道コースの稜線から大千軒主峰、江良岳、千軒平が青空の下にはっきり展望でき、右側に開けた斜面では遠望の津軽半島の山々から津軽海峡、小島、そして大千軒の大きな山裾が足下に広がる。少し虫がうるさいがそれを除くと快晴、微風の快適な山道である。「在るな」と思うところにハクサンチドリ、フウロが咲いていてくれる。雪解けが遅かったことを物語るようにカタクリがまだ咲いていた。目的の山、前千軒岳にも雲はない。

 分岐で休憩し、前千軒への道を辿る。笹がかぶって荒れていた数年前に戻ってしまった道をYamaさんが先頭を歩いてくれた。声を掛け合いながら痩せた尾根道のアップダウンを繰り返す。残雪がまだ大きく残っているいつもの場所ではニリンソウサンカヨウサンリンソウを見ることが出来た。知内コースの大きな沢には雪渓が道を塞いでいてその周囲には蕗の薹も見えている。早春の雰囲気だ。前千軒1056Mに12時着。草丈の低い山道に沿い山路に足を伸ばして昼食にした。股の間にザックを入れてテーブル代わり。その先に大鴨津川が作る大きな谷があちこちに雪渓を残してせり上がってくる。日本海に浮かぶ小島、大島が並んでいるように見える。この展望は前千軒三度目で初めてである。飯がうまい。薄荷油を顔に吹きつけその小さなバリアの中でコンビニお握りを食べた。恵山函館山駒ヶ岳岩木山が見えるという。私の目には駒ヶ岳岩木山しか識別できなかったが見える景色は大きかった。
 痩せ尾根のアップダウンに少し緊張して戻る。花は撮してしまったので、足場の良いところでスナップ写真を撮った。千軒平から千軒岳を背景に急勾配の尾根を降りるアングルは好きだ。